大阪生活

大阪生活の記録

髭を剃るか伸ばすか問題

会社に何も言われなければ間違いなく髪も髭も伸ばしたままにするだろうし、半年か一年かは分からないけど周囲から「髭の人」 と認識された頃に、鳩尾くらいまで伸びた顎髭を一気に剃り落として新鮮な気持ちになりたいという欲望がある。髭を剃るか伸ばすか問題は、この地球上全ての男性にとって切実な問題なのである。

毎朝剃るのが面倒、でもじいちゃんになったときに仙人みたく伸ばしたいから永久脱毛は怖い、でも剃刀の刃を定期的に購入しなきゃいけないのは嫌だし、でも髭をはやしたダンディになりたいってずっと思ってるし、と常に堂々巡り。思春期から髭に関する問題は何一つ解決しないままこうしてアラサーに突入し燃え尽きる未来が見えている。

格好良い人が髭を伸ばしているから格好良いのであって、別におたくが髭を生やしていてもそれは髭を生やしているおたくがただ在るだけで格好良くはないし第一不潔だ。髭面の格好良い人が髭を沿って若返るのは良いが、別に髭面のおたくが髭を沿っても童顔なおたくが在るだけなので迷惑である。そういう事を考えていると酒が進む。

将来へのぼんやりとした不安、髭を伸ばすか否か問題、この仕事を続けるか尾道でゲストハウスを開くか、明日はカブでどこへ行こうか、そういう問題大きいもの小さいもの濃いもの薄いものがゆっくりと大鍋でかき混ぜられ、どろりとした茶色の液体へと姿を変える。大鍋の中には過去30年近くの様々な不安や焦燥が煮詰まっていて目を逸らしたくなるような惨状である。そういう不安のスープを我々は心の器へ注ぎ、しばらく寝かせたのちに飲み干さねばならない。

人生は辛く厳しい。が、そういった有象無象を乗り越えた瞬間の達成感は何事にも代えがたいものである。髭を剃るか伸ばすか問題は未だ解けず、髭剃に於いて何が有象無象かすら分からず、酩酊したぼくはAmazonで両刃カミソリを注文した。両刃カミソリはなんだかよく分からないが使っていくうちに分かっていくらしい。最初の一月は頬が血まみれになるらしいが、そのうちに肌が強くなるか剃刀の使い方に慣れるかして綺麗にそれるようになるという。とりあえず会社勤めである以上、今のところは髭を剃る陣営の一員として生きていくと決めた。