大阪生活

大阪生活の記録

いちや、という店

江古田という西武池袋線の小さな駅はぼくの大学の最寄駅で、ピアノを専攻していた学生だったぼくは4年間足繁くそこへ通っていた。駅近くには喫茶店やラーメン屋、大盛りを売りにしたいろいろな学生向けの店があって、決して少なくない金を駅の半径数百メートルで使ったはず。

それなりに繁盛している「三四郎」という店はぼくが最も通ったラーメン屋で、週に一回は食べに行っていた。けれど実はその前、三四郎という店ができる前にあった「いちや」という店こそぼくの一番お気に入りの店だったことを記しておきたい。

いちやは2012年、本格的な冬を迎える前に突如として閉店してしまったラーメン屋で、本当に普通の醤油ラーメンを出していた。ただとても麺が美味しくて、それ以上に青唐辛子の佃煮が美味しかった。冬場は隙間風が吹き込んできて店内は薄寒く、大鍋から濛々と立ち昇る湯気で窓はいつも曇っていた。最終日には確か社会人になったOG達と喫茶店?部室?で駄弁った後、たまたま線路の向こうに人がたくさん並んでいるのを見かけて入店できたんだ。開店当時の味を再現したらしいが、普段食べていたラーメンの方が美味しかった気がする。

先輩のお気に入りだった「破顔」、後輩の好きだった「パンコントマテ」や「砂時計」、ゼミを抜け出して本を読んだ「林檎」、まだ雑居ビルの地下にあったときの「もるとや」、夏には「冷たい塩らは」が美味しい「ヤマン」そして「いちや」「三四郎」。思い出の街はきっとこれからも少しずつ姿を変えていくんだろう。まだ思い出の残っているうちに再び足を運びたいね。