大阪生活

大阪生活の記録

穏やかな夜に身を任せるな

クリストファー・ノーランの映画が好きなんです、と彼は言った。入社してそろそろ半年になる後輩に好きな映画の話を振ったときのことだった。好きな映画を一つ挙げろと言われて即座に回答できる人はそう多くないと思っていて、どんなジャンルなのか、最近見た映画から選ぶのか、そういったジャンル分けをした上でなら苦し紛れに二つ三つ映画を絞り出すのがせいぜいだろう。彼は「三体」も履修しているようで、発売日に「黒暗森林」を買ったそうだ。とは言いながら途中で挫折したらしいが……

それまでは監督で作品を選ぶという視点があんまり無くて、クリストファー・ノーランと聞いても何を撮った人なのかピンとこなかった。けれどダークナイトインセプションインターステラーと聞いてようやく理解できた。バットマンダークナイトインターステラーは若干違うとは言え、「ああ、あのSFの」と曖昧な発言でお茶を濁してしまった。でも僕が好きな映画であるレオンを撮ったリュック・ベッソンでさえ、初期に「フィフス・エレメント」を撮ってるくらいだから作風は一概には言えないよな、と家に帰ってから思った。

その影響が少なからずあったんだと思う。インターステラーをこの前見た。3回目。映画館じゃなくて自宅シネマだけど迫力は十分だった。ブラックホールが実際に観測されたときのニュースを思い出して、ほんとにこんな形してたんだなぁと感慨にふけったり、マット・デイモンを見て「火星の人」を思い出してほくそ笑んだりした。映画では「穏やかな夜に身を任せるな」と誰かの詩が引用されていて、どんな意味なんだろなとは特に考えずラストシーンにしんみりしていたが、今夜はあまりにも穏やかな夜でつい映画のことを思い出してしまった。ネットで調べてもあまり腑に落ちない説明だったが、穏やかな夜に身を任せてもいいんじゃない、と酒の入った頭で考えている。一年のうちで最も過ごしやすい気候で、食べ物も美味しいし服を着ても暑くない最高の季節。秋よずっと続いてくれ。

鍼灸院と天丼

始めて鍼灸院に行った。その鍼灸院は家からカブで5分のところにあるマンションの一室にあって、かなり怪しかったけど施術は普通に良かった。半月くらい前から左の肩甲骨と腰回りに違和感があって、座っていても30分ごとに立ち上がってストレッチしないとキツくなってきた。以前行った整体は謎に高い枕を買うことを激押しされたうえ、受けてない施術の料金を請求されたこともあり、ああいった場所に不信感を募らせていた。しかし施術を終えると少なからず身体は楽になったため、落ち着いた雰囲気の(謎にグーグルマップの評価が高すぎない)場所を探して行ってきたわけです。

40代の痩せぎすの男性が出てきて5分くらい質問をされたあと、やや硬めのベッドの上に寝るよう促される。この鍼灸院の良い点は施術中に「えらい凝ってますね」とか「背骨歪んでますね」とか言われないところで、頭を真っ白にした状態で身体を委ねることができた。床屋でも美容室でも、話しかけられるのはあまり好きじゃないのでこの鍼灸院は非常に居心地が良かった。どうせなら針もお願いします、と伝えると「そんな必要ないと思いますが……」と言いつつ左肩に針を打ってくれた。筋肉が鈍く重くなったような、初めての感覚だった。ただ打たれる前と打った後ではそこまで変化は感じられなかった。

お金を支払い駐輪場へ向かう。揉み解されている間は、自分の身体が多くのパーツが組み合わさって成り立っていることを感じていたが、いざ歩いたり寝転んだりするときには身体のことなんて全く意識しないんだなと気づいた。「筋トレすると身体のバランスが整います。今ならユーチューブで見られる筋肉体操がオススメです」と言われたのが面白かった。その日はよく寝られたが、翌日まで爽快さが続いたかと聞かれると微妙だ。

話は変わるが今日、昼過ぎに靭公園近くで商談する機会があった。靭公園にはオシャレな店が多く、本町駅から数分歩くだけで魅力的な飲食店を数多く見ることができる。懐と相談し、丸亀製麺へ行くつもりが長蛇の列を見て断念した。近くにある美味しいラーメン屋に行こうとも思ったが、身体のことを考えてセーブした。道沿いにある蕎麦屋か悩んで、少し離れたところにある「うつぼ慶之助」という店に入った。さっき身体のことを考えたはすが、欲望に負けて天丼を頼んだ。海老二頭に穴子二本、汁物と漬物が付いて980円。弊社の昼食手当は1000円なのでギリギリ予算の範囲内だ。12時半を回るか回らないかの辺りで入店したので、注文してから届くまでにどんどん人から抜けていく。客の多くはサラリーマンで、若い女性は2.3人だった。厨房では注文が入るたびに天ぷらを揚げており、そこで夫婦と思しき二人が一生懸命働いていた。揚げたての天ぷらなんていつぶりに食べただろう。衣の歯ごたえが素晴らしく、時計もスマホも見ずにただ一人美味しさに悶えていた。この美味しさを誰かと分かち合いたい。10分も経たぬうちにすべて腹に収めてしまい、こんなに美味しいもので腹が満たされた幸福感に包まれ、その気分のまま店を出て取引先に向かった。取引はうまくいかなかったが、結果幸せな日だった。

変わらないこと

人並みの社会性を身に着け、それ以外は学生時代のままずっと生きていきたい。会社に馴染むためには性格も態度も大きく変える必要があって、それこそ嫌な人とも仕事をしないといけないし、汚れ役を買って出ることも時には必要。これを前向きな変化と表現するか社畜に成り下がったと表現するかは人それぞれだ。学生時代のぼくを知る人から「マジで社畜になってて笑う」って言われたことがあるけど、君こそ他人の選択に文句言う筋合い無くない?

ぼくはどこまでいっても労働者階級であり、今のところ自分の身体を使って金を稼ぐほかない。将来的に自分で事業を立ち上げるとしても、少なくとも向こう5年間は会社員であり続けたいと思っている。その間少しでも良い環境に見を置くためにも、サラリーマンの擬態をするのはかなり有利に働くはずだ。だから周囲の人との接し方や言葉の選び方など周囲に馴染む努力を続けたいし、どんな嫌なことでも仕事であれば進んで引き受けたいし、引き受けるべきだと思っている。

とは言うものの、自分のコアの部分は絶対に変えたくない。金を稼ぐのも大切だけど金より日常生活が大切だとか、音楽や旅行のような趣味に時間を充てること、部屋を清潔に保つことと定期的に友人と会うこと、そういった感覚は忘れないようにしたい。金のために働くんじゃなくて、自分の目標に近づくために会社の看板を借りて働いてる。そういう意識は常に持っておきたいし、何より世界のためになる仕事で食っていきたい。だから現職も次職もお天道様の下を大手を振って歩けるような仕事を選んだし、今後もそうあり続けたい。

自分は社会性を発揮するような交友関係は必要ないと考えていて、自然体でテキトーに接することのできる友人とばかり遊んできた。今振り返ってみるとオタク的な人のほうが長く続いている気がする。彼らはどちらかというと個人行動を好み、集団生活が苦手な地味なタイプ。みんな自分の趣味を持っていて、それぞれが自分の好きなことがを語れるのが楽しい。別にそんな頻繁に合う必要はなくて、都合が付くときにフラッと会えるような間柄なんです。彼らは概ね高校時代か浪人時代の友人達で、みんな男だから最高だ。恐らく彼らはぼくが一文無しになろうが大富豪になろうが変わらず接してくれるだろうし、誰が結婚しても離婚しても関係は何も変わらないはずだ。

ここ数ヶ月、時間が流れる速度がめちゃくちゃに早い。年末にかけて環境が大きく変わることもあり、油断ならない数ヶ月になりそうだ。大学受験で使った化学の重要問題集でも見返してみようかとか、次買うキーボードを選ぶだとか、それ以前に引き継ぎを終えなきゃだとか、正直やることが多い。やることをやって、最後はありがとうございました、と会社を後にしたい。変わるとこは変わって、そうじゃないところは変わらずにいたい。

追記

東京でバンド復活です。ジャズやろうぜ。

窓を開けて寝られる季節こと秋。前の土日くらいから急に涼しくなってきて、なんと今朝はタオルケットに包まった状態で目が覚めた。夏の間ほとんど使われることのなかったタオルケットがようやく使えて嬉しい。

そろそろ長袖シャツの出番だ。髪を整える前にシャワーで髪を濡らすあの爽快な時間も、じきに苦痛へと変わっていく。そう遠くないうちに寒さに耐えかねてジャケットを羽織るだろうし、家から出るのが嫌になるはずだ。

家を出てすぐのケヤキ並木が黄色がかってきた。雲が薄く長く形を変えた気がする。セーターを着た学生を見た。室内を通り抜ける風が肌に心地よい。庭先のコスモスが咲いては枯れ、咲いては枯れを繰り返す。指先が冷える。素麺を昔ほど求めなくなった。カブに乗りたくなった。マスクは相変わらず苦しいが夏真っ盛りより呼吸がしやすい。車窓から見える小学校のグラウンドに運動会のためのテントが立った。ちゃんと時間は流れて季節が移ろっていく。あと何回秋を楽しめるのか。来年の秋はどこで何をしているのか。

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今後の人生について

当時新成人は(もちろん時期は限られたけど)ミュージックチャージ無料でブルーノートやコットンクラブに行けたんです。地元の幼馴染と高校の同期がたまたま早稲田のスウィングに入ってて、二人から誘われたので胸を躍らせながら東京駅へ向かった。実に2013年1月6日のこと。丸の内ビルディングの2階にあるコットンクラブは、当時のぼくにとってはあまりにも大人の空間で見るもの聞くもの全てが刺激的だった。

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当時ワクワクしながらiPhoneで撮った一枚

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これしか頼めなかったんだよね

確かライアン・カイザーのライブだったような、と検索したらヒットした。これだよ。

www.cottonclubjapan.co.jp

席は幼馴染の向かい。彼はスポ小時代からの知り合いで、同じチームでサッカーボールを追いかけて、中学校では(学年でたった二人だった)男の伴奏者同士仲良く過ごしていた気がする。彼は高校から早稲田の付属校へ入ったので物理的な距離は離れたけど、お互い男子校だった上にジャズやフュージョンが好きだったこともあり、一緒に勉強したり飯を食いに行くなど比較的仲良くやっていた。当時既に出会ってから10年が経っており、ここまで友情が続くとは……と話をした記憶がある。

ライブ後、あまりの素晴らしさに「絶対ここに気軽に来れるくらい稼ごう」「寧ろジャズバーを開こう」「絶対にジジイになるまで楽器は続けよう」などと約束を交わした。当時は酒の勢いで語っていたのだが、時が経つごとにその約束は重みを増し、あれから10年近く経った今でもあの当時の約束を胸に我々は生きている。当時の約束は徐々に具体的なものへと変わり、「40歳で1000万は稼ごう」「家を立てて地下にスタジオを作ろう」「結婚しても家庭を持っても楽器は続けよう」など。

現在の進捗状況は特に触れないが、案外なんとかなりそうな予感がしている。少なくともお互いまだピアノは続けているし、スタジオを作るにしても決して不可能ではない。年収についても足して2で割れば40歳で平均1000万には届きそうだ。転職することでぼくの拠点は埼玉へ移動するし、彼も来年か再来年には戻ってくる。

成すべきことを成す。自分の将来をイメージして、近づけるように努力していけばきっと道は開けるはずだ。まずは次の会社で頑張って認められて、数年内に海外駐在することを目標に行動する。嫌でも英語を話さざるを得ない状況に追い込まれば話せるようになるだろうし、扱う製品や業界にも詳しくなるに違いない。この業界は今後大きく変わるはずなので、乗るしかないこのビックウェーブに。やってやろう。

退職交渉(2)

上司の上司同席で退職交渉を行う。上司の上司から転職先を何度も問い質された上、「もうお前に聞くことはない」とのお言葉を賜った。オーケー、辞めて正解だったよ。

伝える必要は無いと思いつつ、転職先は仕方なく伝えた。部長は名前を出した途端黙ってしまい、課長は「それはいいステップアップだね」とフォローしてくれた。本当にありがたい課長だ。

最終的には今年の10月末で退職することが決まった。有給消化については未決定だが、使えるだけ使うつもりだ。

そして5時半に会社を抜けたときの世界の輝きたるや!空は水色とオレンジ色を混ぜたような色で、晩夏の空気が漂っていた。近くの大丸梅田店に反射する陽光が眩しい。一生忘れない風景かもしれない。

明日からはいよいよ引き継ぎで忙しくなるぞ。だから今日くらいはお酒飲んでもいいでしょ。f:id:osakajazzlife:20200908175543j:image

次の仕事で尾道に行くことはなくなりそう。行けるうちに行かないとな。

退職交渉

着実に退職へと歩みを進めている。先程ようやく上司(課長)との面談を終えた。少なからず上層部から(ぼく自身の)仕事は評価されてること、辞められるのは寂しいが自分で選択した道であれば無理に引き止める気などないことを伝えられた。実は上司も転職組で、次の会社が魅力的であるなら挑戦するべきだと後押しされた。

週明けは部長と課長と僕が同時に出社する予定なので、そのタイミングで部長含めて退職日等の話し合いをしましょうとのこと。咎められることも人格否定されることもなく極めて平和裏に退職交渉は進んだ。「マネージャーとしては引き止めるべきだけど、個人として応援したい」と言われたのが印象に残っている。退職の道を選んだとしたら、しっかりと送り出してあげたいと言ってくれて嬉しかった。課長がこういう人でよかった。しかし来週面談予定の部長は昔気質の人間なので、果たしてどうなるか。